はたらくことの意味は、だいたいドラッカーが教えてくれた。

働くことの意味、人生の意味を喪失した私が、ドラッカーと出会い意味を取り戻していくまでの、10年とちょっとの人生記録。

“お人よし”も過ぎれば害悪をもたらす。

前回からつづく)

入社して2か月。
信じられないほどに、すべては順調だった。

当面の戦略は固まった。
戦略はひとつひとつの仕事へと落とし込まれた。
仕事の手順、プロセスも明らかである!!

が、しかし、、、
そう簡単にいくほど、世の中は甘くない・・・。

次なる課題は『人』だった。親族経営の小さな会社にありがちな、人事にまつわる問題だった。

 

 

彼はこの会社で「部長」と呼ばれていた。歴史の浅いネットショップ業界で、この道7~8年のベテラン。一時代を築いた功労者でもあり、業界内でもそこそこ名の知れた有名人だった。


一般的なTVドラマでは、こういう古参の重鎮が改革の抵抗勢力となり、生き残りをかけて、周りを巻き込んでの全面闘争を仕掛けてくると相場は決まっている。ましてや改革を主導するのは新参者。社長の息子という特権的ポジションを悪用する、にっくき相手である。

ここは、喰うか食われるか、やるかやられるかの、全面戦争になるのがお約束というものだろう。

 

 

しかし、現実はまったく違った。
彼はただの『お人よし』だったのだ。
それも、根っからの・・・(笑)


『お人よし』というのは、実に厄介である。いっそのこと、敵意をもって抵抗してくれる方が、はるかにやりやすいと言うものだ。その方が、お互いの意見をぶつけ合うこともできる。結果として、協力し合えるポイントを見つけられる事だってある。

お人よし過ぎる彼の辞書に「No」の文字はなかった。誰の、どんな意見に対しても、オール「Yes」だった。彼の辞書には「Yes」しかないのだ。もちろん私の意見にも、立案した戦略にも、役割分担を変えることにも、すべてニコニコ笑顔でYesである。

 

 

すべてをYesで答えるということは、実はなんの疑問も持たないという事と同義である。実際、彼は何ひとつ理解していなかった。そして、これまで通り自分のスタイルで、これまで通りの役割分担で、仕事をやり続けた。

悪意なき抵抗勢力の誕生である。まるで3歳児のように無垢な気持ちで、彼はこれまで通りの仕事を続け、その動きが周りと一致しなくなっていった。

 

 

なぜ彼のような人間が部長というマネジメントのポジションに任用されてしまったのか、その答えは簡単である。真面目に社長の言いつけを一生懸命にこなし続けた、親族の一員だったからである。親族企業あるあるを、地で行っただけのことだ。

のちにドラッカーを学んで知ったことだが、マネージャーには為すべき役割がある。マネジメントを機能させるべく、いくつかの仕事を責任をもって遂行する人が、マネージャなのだ。それは資質とは関係なく、仕事である。

残念ながら、彼にマネジメントの立場にいるという意識や責任感は皆無だった。当然、マネージャーとしての仕事は、何も行っていなかった。

すべての人にお人よしとして接し、すべての人の意見にYesと言い、自分自身が得意とする仕事のやり方で、個人商店として仕事を続けた。

 

 

なぜ社内に個人商店が2つのような状態で仕事を続けてきたのか? なぜ言われるままに広告を買い続け、利益のあがらない体質にしてきたのか?

その元凶が、彼の「お人よし」ぶりにあることは明白だった。社内・社外問わず、人からは好かれていた。しかし、役割を全うしているとは言い難かった。それは成果にはつながっていなかった。マネージャーとしては、その「お人よし」さがむしろ害悪をもたらす要因となっていた。

会社の古株の重鎮であり、誰からも好かれている人を、そのポジションから追いやることは困難のように思えた。しかし、それから3カ月後に、彼は社長命令で別のポジションへと移動となった。部長という役職だけはそのままに、個人商店として動ける法人営業担当となった。

移動の原因もまた、彼の人のよさにあった。最盛期の3月に、再び言われるままに予算を超える広告を買い漁った。なんども失敗した古いやり方に再び手を出し、予想通り失敗した。彼は最後まで、自分自身を変えることができないまま、その役割を去ることになった。

  

 

 

【今日のドラッカーの言葉】
対人関係の能力をもつことによってよい人間関係がもてるわけではない。自らの仕事や他との関係において、貢献に焦点を合わせることによってよい人間関係がもてる。そうして人間関係が生産的となる。生産的であることが、よい人間関係の唯一の定義である。

<P.F.ドラッカー 経営者の条件> 

 
<コメント>
私たちが感じるストレスの多くは、人間関係に起因すると言われます。脳はできるだけ楽をしたがる特性を持っていますから、対人関係にストレスを感じたとき、人はすぐに他者とのコミュニケーションに答えを求めてしまいがちです。

しかし、仕事における課題のほとんどは、仕事の設計の問題です。人間関係における課題のほとんどは、自分自身を知らないがために起きていることです。どんなにコミュニケーションの能力を磨いても、本来の課題が解決するわけではないのです。

組織においては、「仲の良さ」ばかりを重視すれば本来の仕事がなされず、成果はあがりづらくなります。組織の成果があがらなければ、結局は人間関係も悪化してしまいます。

「誰の意見が正しいか?」ではなく、「何が正しいか?」を考えなければなりません。もちろん人とより良く接することは大切ですが、仲の良さや、自分の考えを認めてくれる人間関係ばかりを重視すれば、結局は不毛な人間関係しか手に入れることが出来なくなります。表面的な仲の良さよりも、共通の目的に向かい切磋琢磨しあう仲間こそが、真に大切と言えるのではないでしょうか。

 

  

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 <講座および読書会のお知らせ>
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